読切小説
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【シェアードワールド企画unei】学識ある無知
「なんでわたし男の名前がついてるんでしょうね。まあいいッスけど」
 頭を無造作に掻きむしった手を白衣のポケットに突っ込んでパラケルススが言う。
 ダンタリアンとパラケルススの二人は自動販売機で飲み物を買い、校舎の中庭で日向ぼっこをしていた。ダンタリアンの手には缶コーヒーが、パラケルススの手にはグレープ味の炭酸飲料があった。パラケルススはそのジュースを買うなりラベルをはがしてゴミ箱に突っ込んでいた。
「今日は晴れて良かったッスねえ」
 彼女はジュースを日にかざす。紫色の透明な水に光が差し込んできらきらと輝く。
「わたしたちみんな国王一座につかまって、屋上の魔女から名前をもらいましたけど、あいつは何を思って名前を付けてるんッスかねえ。いったいどこまで見えているのやら」
 ダンタリアンは彼女に何をしているのか聞いた。
「特になにかしてるってわけでもないッスよ。あえて言うなら、人類の英知を堪能してるって感じッスね。ダンタリアンは考えたことないッスか? この500mLの中に人間の積み上げてきた技術がどれだけ詰まってるかって。ただ水を飲むだけでも大変なのに、こういう嗜好品が容器までついて気軽に手に入るんッスから、すごいッスよ。まあそれとは別に、わたしが透明なものが好きってのもあるんスけど」
 そろそろ本題にうつりましょうかと、彼女はジュースを横に置く。
「親が診療所をやってて、わたしはそれを手伝ってるんで怪我とかヤバいことになったら応急手当くらいならできます。本格的な治療は病院行ってください。死にたいなら別ッスけど。あと、薬品とか実験器具も少しなら公式になんとかできると思います。これでも大人からは信用されてるんで。あれッス、ビーカーに薬品をたらして煙がボンっと出る奴なら再現できます。ただし一度に大量の仕事を吹っ掛けるのはやめてください。わたし、キャパがけっこう限られてるんッスよ」
「食べるの苦手なんッス。だからエネルギー補給がうまくできなくて。食べるのって疲れるじゃないッスか。いくら空腹でも食べる気にならないんスよ。いくらおいしいもの食べてもそんな感じなんで改善はあきらめました。この喋り方も省エネのためにやってます。上下関係気にしなくていいんで」
 パラケルススは立ち上がってダンタリアンにジュースを投げ渡す。
「今日はこんなもんでいいでしょう。それあげます。もういらないッスから」
 彼女はあくびをしながら立ち去った。
17/06/29 18:02更新 / 黄色信号機

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