読切小説
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【シェアードワールド企画unei】ジョニーは西部へ行った
 サラに誘われ、ダンタリアンはとある喫茶店に来ていた。窓際のテーブル席で、二人は向かい合って座っている。人通りのある、見晴らしのいい大通り。往来する車の音は途切れることがない
「こちら、ご注文のアップルパイとクレームブリュレになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「えっと、コーヒーふたつはもうきてるから……これで全部です」
「ではごゆっくりどうぞ」
「あ、中島さん!」
「はい?」
「かわいいですね、そのヘアピン」
 サラは自分の頭を差して位置を示す。
「ああ、ありがとうございます」
「どこで買ったんですか?」
「駅にあるお店です。確か……在来線の改札の真上くらいにある」
「なるほどあそこですか。最近ちょくちょく話題になるんですよ。今度私たちもいってみましょうか」
 サラはダンタリアンに同意を求める。ダンタリアンは笑顔でうなずく。
「ありがとう、中島さん。今日もいい日になりますように」
「こちらこそ」
 その従業員は一礼をしてその場を離れた。
 注文はこの店オリジナルブレンドのエスプレッソ二杯と、ダンタリアンにアップルパイ、サラにはクレームブリュレ。ダンタリアンは彼女に勧められるまま注文した。
「この店のアップルパイはリンゴがこれでもかってくらい詰め込まれてておいしいの」
 サラはクレームブリュレの表面をスプーンで割りながら言う。
「この国にはチップの慣習がないでしょう? だから、いいおもてなしへの感謝を表すのに直接お金は出せない。私はその分愛想をふりまくようにしているの。良いものにはそれ相応の対価が支払われるべきよ。とか言って、私はどうしたってそれ以上をばらまいてしまうのだけどね」
 彼女はクレームブリュレをすくって口の中へ入れ、心底美味しそうな顔をするのだった。
「『お客様は神様』って言葉あるじゃない? 私はね、神様だったら神様らしい役割をこなさなきゃいけないと思うの。八百万もいる神様でもそれぞれ仕事を持っているのだし、私だってそう呼ばれるならその分の行いをしなくちゃって、そう思うの」
 サラは手に取ったコーヒーをのぞく。
「こんなのは後付けかもね」
 ダンタリアンも切り取ったアップルパイを口に運ぶ。
「美味しい?」
 ダンタリアンはうなずく。
「よかった」
 コーヒーの香りと味を楽しんで、サラはあらためて言葉を紡ぐ。
「私ね、人間が好きなの、とっても。私は人間を愛してる。いろんな人がいろんな表情をするのが好きで、人がいろんなものを作り上げるのが好きで、もっと遠くへ行こうとするところが好き。楽しそうな人、悲しそうな人、怒っているひと、ふとしたときの癖やしぐさ、張り上げたりささやいたりする声に、想いのこもった眼差し。そういう人間の心とか、内に抱えている力とかが好きなの。私はそういうものに近づきたくて、そういうものを持っている人たちと仲良くなりたいと思った。それで実際そうしてきた。人生の一分一秒が幸せだった。今もそうよ。私はずっと人間を好きでいたし、それが最高に幸せだった。でも、それでも、ふと考えたの、いつか人間を嫌いになったらどうなってしまうだろうって。私のまわりの人の話を聞いているとね、私がいつか人間を嫌いになってしまうんじゃないかって、不安になるの。世の中には人間自身を否定する行いや言説が転がっている。今はそういうものを私の中に受け入れられているけれど、もっとひどいものを見たときに失望するかもしれない。予感がするの。とっても悪い予感がする」
「もっとわかりやすい話に置き換えましょうか。私はずーっと人の近くにいていろんな話を聞いた。彼らはいつも自分のつらい境遇を語ってくれる。それ自体はとっても好き。好きなんだけど。どこもかしこもつらい話ばかり。私の未来にはつらいことしかない。そんなつらい世界に生きたいと思う? 彼らは好んで幸せを語らない。だから――」
 サラは笑っていた。
「私が幸せなうちに私を殺して、ダンタリアン」
 砂糖もとろけるほどの甘い笑顔だった。
17/06/01 00:08更新 / 黄色信号機

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