読切小説
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無題1
 朝。いつものようにベッドの上で目を覚ます。
 いつもと同じ天井。自分の部屋なのだから、当たり前だ。
 だが、
「おはようございます。ご主人様」
 いつもと同じ部屋の、いつもと違うところ。
 天井から視線をはずすと、こちらを見て微笑む女性の姿が目に入る。
 古風なメイド服を着て、長いはずの髪はキャップの中にまとめられている。
 彼女は新しく雇ったメイドだ。とは言っても、人間じゃなくて、アンドロイドの。
 前のは、寿命が来てしまったから、友人のすすめで、新しいのを格安で。
 黒色が、栗色になった。
 顔つきも、東洋風から西洋風に。
 明らかに変わったと言えるのはこのくらいで、ほかに何がどう違うのかはよく分からない。友人はこの最新機種について、あんなことができるだのこんな機能があるだの興奮気味に説明してくれたが、わたしには興味が無かった。
 とにかく、違うのだ。雰囲気というか、ニュアンスというか。
 でも、これは良い違いだ。
 今日も早くから仕事がある。アンドロイドにほとんどの労働が任されるようになっても、わたしの仕事は、まだまだ人の手が必要となる部類だから。
 だがその前に、いつも通り、仕事前に軽い朝食をとって、熱い紅茶を一杯。
「どうぞ、ご主人様」
 メイドが差しだしてくる紅茶の香りも、いつもと変わらない。味も、いつも通り。
「どうかなさいましたか?」
「いや……」
 メイドと目が合うと、栗色の髪を持つ彼女はにこりと微笑んだ。
 なぜだろう。
 いつもと同じ紅茶なのに、いつもより特別な気がするのは。
「……やっぱり、ご主人様はやめにしないか?」
「そうはいきません。私はあなたのメイドですから」
「そういうものか?」
「そういうものです」
「なら仕方ないな」
「ええ、仕方ありません」
 朝食の後、玄関までメイドが見送りに来るのも、前と何も変わらない。
 しかしというか、やはりというか、どこか特別なことのように感じる。
「では、行ってくる。帰りは十九時頃になる。ああ、そうだ、煙草が切れかかっていたから、買い足しておいてくれ」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
 けれどいつかこの特別も、
「うん。と、その前に……」
「?」
 彼女と過ごす日々の中で、
「これからよろしく」
「? ……はい。よろしくお願いします。ご主人様」
 いつも通りに、なっていくのだろう。
17/06/04 21:12更新 / ゆうちく

■作者メッセージ
どうも、ゆうちくです。
最近、夏に向けてエアコンを買い換えたゆうちくです。
それ以上でも、それ以下でも、ましてやそれ以外でもありません。
これから、こういったほのぼのした短い作品を、書いていけたら良いなと思います。
お読みいただき、誠にありがとうございました。

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