読切小説
[TOP]
USJの待ち時間にプチリレー小説1
あ〜〜。
夏はだれる。あつい。
手に持った小さな扇風機の風を、口いっぱいに受ける。
僕は、160分待ちのジェットコースターの列に、ひとりで並んでいる。いや、並ばされている。
待ち人がこないまま、かれこれ30分もならんでいる。
来ない。
ただフードを買ってくるだけなのだけど、向こうも混んでいるんだろうな、とは思う。思うけども、
「遅い」
何かあったのだろうか? 僕はそんなことを考えるわけでもない。遅い、遅い、遅い。それしか頭にない。イラついているのかもしれない。
僕の彼女、美咲は、重度のテーマパーク好きだ。彼女についてこういうところに来たことは何度かあるけど、あれ、いつもこんなにまってたっけ。

「遅い」
「悪かったわね」
長い髪をかきあげ、彼女は言う。
ジャスミンの香り。
今日は強めの匂いのシャンプーなのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何してたの」
だって彼女は、フードもなにも持っていなかったから。
「なにって?」
いやなんだそれ。
「フード買いに行ってたんじゃないの?」
「あら」
そう言えばそうだったわね、と呟いて鞄の中からペットボトルの水を出して飲む。一口もらおうと手を伸ばしたら断られた。
「何してたの?」
強い口調で聞き直す。
彼女の髪からは、僕が嫌いなジャスミンの香り。
「何であなたはそんなことにこだわるのよ」
意味の分からない答えが返ってきた。
「は?」
むっとしてにらむと彼女は、なんだか納得したような顔をしてにやりと笑った。
「トイレに行きたいの?」
行ってこれば、と出口を指す。
そんな彼女の顔に、僕は扇風機を向けた。
ジャスミンの香りが散る。
「行ってくる」
僕は、彼女に番を任せ、列を離れた。
――彼女がテーマパークを好きな理由。
僕は、彼女が並ぶ列に合流したときに知ることになるとは、その時思ってもみなかった。

数分後、列に戻って彼女を探す。
いない。
いない?
そんな訳あるか。
「おーい」
周りの人に迷惑そうな目を向けられるけど気にしないしてる暇じゃないし
「おーい」
再び叫んでみる。
「ここよ」
頭上から声がした。
すると……。
頭の上から強い風が吹いてきた。
彼女……ではなく、扇風機の風だった。
いや、待てよ?
「ここよ」
ジャスミンの香りを撒き散らしながら、彼女は僕に顔を向けた。
ぶぉっと僕の髪が後ろに流れる。
なんだかよく分からない僕の思考を後ろに押し流して、僕は彼女と会話を試みる。
「そんなとこでなにしてるの?」
「吹いてるのよ」
そりゃそうか。
「あなたに言っていなかったことがあるの」
僕が呆気に取られる中、風を吹かせながら彼女は言う。
「私は、テーマパークの扇風機として生きてきた。でもね、ある日から記憶が無くなったの」
「ふーん」
どうでもいい。
「ねぇ、そこから降りてこれないの?」
「そんな時にあなたと出会って……え?」
「そんな昔語り、どうでもいいからさ」
僕は彼女に手を伸ばす。
「僕とここを楽しもうよ」
扇風機は足りてるんだ、と手元を見せる。
「でもね」
彼女は一息置いて、言う。
「人間の姿への戻り方、分からないの」
彼女の風が強くなる。
周りの人の好奇な目がイタい。
「は?」
周りの頭上のカチューシャのキャラクター達も僕らを見ている気がする。
改めて問う。
「戻ろっか?」
「戻れないの」
「戻ろうよ」
「戻れないのよ」
「どうすんの?」
「どうすればいいと思う?」
僕に聞くなよ。
「私は、戻るべき場所に戻ったの」
だから。そう言うと、言葉がなくなる。
泣いているのだろうか。
風が弱くなる。ジャスミンの香りも、気にならなくなった。
嫌いではない。
「そうか」
彼女、いや、扇風機をしっかり見つめる。
「君の戻るべき場所は、僕の隣だろ?」
扇風機をがっと掴んで引っ張る。
するっと抵抗なく、彼女が落ちてくる。
「は……なに……」
「おかえり」

「えっ……」
彼女は状況がよく分かっていない様子だ。
キョロキョロしている。
かわいい。
僕は、なぜ彼女を嫌っていたのだろう。そうか、どの恋人にも訪れる、倦怠期ってやつか。
もう一度、彼女を抱きしめて言う。
「おかえり」
「た、ただいま?」
ああ、幸せだ。
彼女もなんだか笑っている。
見つめ合って微笑んで、唇を近づけ……。
後ろから肩を叩かれて振り返る。
「なんですか?」
怪訝な顔をして振り返ると、前をさされた。
「列、進んでますよ」
17/05/30 11:16更新 / 夕雨

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b