読切小説
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【シェアードワールド企画unei】うつし身の舞台
「君は、何故彼らが今すぐにでも死を選ばないのだろうと思うかもしれないね。でもよく考えてごらん、人間はわりあい、そう簡単には死なないものだよ。感覚が麻痺してしまっているかもしれないけど、本来はそうあるべきものだし、実際にそういうものだ」
「私か? 私はもちろん、そんなつもりは毛頭ないよ。でも話の筋でそうなるのだったらさっくり死んでやろう。そのあとにどんな手を使ってでも復活するから問題はない。良いことも悪いこともたくさん知っているからね。それくらいはどうってことない」
「ついでに確認しておこうか、君ができることについて」
 そう言われて、ダンタリアンは手に持った本を開いて滔々と語りだす。
 ダンタリアンには非常識な能力が二つある。
 一つは他人の心を操ること。心の中を盗み見て、あらゆる感情を植え付けることができる。
 もう一つは幻影を投影すること。どんな場所にも幻を映して、視覚を騙すことができる。
 ダンタリアン自身はこの魔法のことを何とも思っていないが、国王一座は少し楽しそうにその話を聞いていた。
「ふむ、素敵だ。素敵な魔法だね。その手に持っている本のことも気になるが、また今度にしよう」
「お礼に昔の話をしてあげよう。私とアビィが初めて出会ったときの話を」
「その日は、私の家とアビィの家で集まって花見の宴会を開いていたんだ。うちの敷地には大きな桜の木があってね。大人たちが酒を飲みながらぎゃあぎゃあと騒ぐ場所だったから、私は始まってしばらくすると退屈してしまったよ。そこへアビィが遅れてやってきた。アビィはその頃、旧い家にはありがちなように、『お姫様』だった。何人もの大人に付き添われていた。きれいに着飾っていてね、桜が散るのと合わさって、それはそれは見事な装いだった。おしとやかで、静かで、今思えば、あれがひとめぼれってやつだったかもしれないな。アビィのことを、とても素敵だって思ったんだ」
「アビィは周りの何人かに挨拶をしてから私のもとへやってきた。私はちょっと慌てて立ち上がって、服を取り繕った。そして私たちは互いに礼を交わした。そこでね、目と目が合ったんだ。ガラス玉のように輝く瞳を見たんだよ。私はたまらなくなってアビィの手を取ると、一緒に花見会場を抜け出した」
「私たちはそれからご飯を食べるのも忘れて遊びまわった。足が動かなくなるまで走り回ったよ。それから、私たちは互いを『アビィ』、『アビー』と呼ぶようになった。遊びでつけた名前をずっとつかっているんだ」
「なんで今こんな話をするんだって思ったろう? 単純に私が惚気たいというのもあるけれど、もう一つ理由がある」
「私たちの名前は魔女や悪魔と関係するんだ。『アビィ』、『アビー』は『アビゲイル』の短縮形。アビゲイルという名前自体はありふれたものだけどね、『セイラムの魔女裁判』ではちょっと奇妙な役回りをしている部分がある。『アビゲイル・ウィリアムス』。これはセイラム魔女裁判における悪魔憑きの少女の名前だ。そして『アビゲイル・ボッブズ』。これは魔女として告発され、さらに自ら魔女になろうとした少女の名前。私たちの名前はそういうところから取った。起こるべくして起こったんだ、私たちの事件はね。もちろん魔女裁判に巻き込まれた中には、他にもアビゲイルという名前を持った人はいるよ。でもね、重要なのは私たちに共通する点があるってことだよ」
「これは仮に彼女のことを『アビィ』として話すのだけどね、彼女の母親はアビィのことが嫌いだったのさ。たびたび恨み言をアビィに浴びせかけていた。『こんな気の狂れた子の母親になるなんて思ってもみなかった』とね。自分の知らないことを何でも知っていて、自分の知らない言葉を話し続ける娘のことが怖かったんだ。自分は宇宙人を生んでしまったとでも思っていたんだろうよ」
 彼は呪詛を語るように、言って聞かせるのだった。
「おっと、そろそろ約束の時間だ」
 それじゃあ、とダンタリアンは席を立とうとした。
「ああ、座っていなさい。ここで会う約束でね、せっかくだから一緒にどうかと思って」
 ダンタリアンはちょっと止まって、彼の提案を承諾し、誰が来るのかと尋ねながら座りなおした。
「来るまでの秘密にしておくよ。月並みだけれど、楽しみは取っておかなくちゃ……それと、トイレに行きたいなら先に行って来なさい」
 それならお言葉に甘えて、とダンタリアンは部室を出て行った。
17/07/13 00:04更新 / 黄色信号機

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